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アイルランドの町キルケニー。イングランドからオオカミ退治のためやってきたハンターを父に持つ少女ロビンが、森の中で友だちになったのは“ウルフウォーカー”のメーヴだった。人間とオオカミがひとつの体に共存しているばかりか、魔法の力で傷を癒すヒーラーでもある彼女とロビンが交わした約束は、図らずも父を窮地に陥れるものだった。だが、少女は勇気を持って信じる道を進もうとする。
『ブレンダンとケルズの秘密』(2003)『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』(14)『ブレッドウィナー』(17)と製作した長編作品すべてがアカデミー賞にノミネートされ新作を最も待ち望まれるアニメーション・スタジオの一つ、カートゥーン・サルーン。本作はケルトの伝説に着想を得た『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』に続く三部作の最終作として構想から7年をかけて製作され、2D手描きアニメーションの世界観はそのままに、今回新たにオオカミから見た風景を、3Dソフトウェアを使ってダイナミックなカメラワークで表現している。森の生物や植物などスタジオ史上最多のキャラクターが登場し、オオカミの群れとの迫力ある闘いのシーンなどエンターテイメント性の高いファンタジー作品に仕上がった。
この作品は世界的なロックダウン中に完成した。共同監督のトム・ムーアは「現在の危機の大部分は、私たちグローバル社会が動物に対して行ってきた、無計画かつ好ましくない態度が生んだものだ。」*と語る。少女ロビンはなんとかしてオオカミを殺さず、人間との共存の道を探そうとする。古代ケルトの人々はオオカミを自分たちより強い生き物と捉え、尊敬の念をもって接したという。自然の中では人間も動物も先祖から受け継いだ生命を、次の時代につなぐ役目を果たす。全ての生命に対して謙虚であろうとすること、それが本作の持つ優しさの由縁だ。アイルランドでは1786年を最後にオオカミは絶滅してしまった。長い間語り継がれた伝説に新しい生命がふきこまれ、魅力的なキャラクターと共に再生した物語は、深い傷を負った現代を生きる私たちに、優しい感情を取り戻させてくれる。 *IndieWire 4.27.2020
『ブレンダンとケルズの秘密』の美術監督だったロス・スチュワートが共同監督に加わり、惹き込まれずにはいられない美しい森や中世の街並みを構築した。城の中の世界をモノトーンの版画風に、森を色鮮やかで柔らかな水彩で描くという手法を用い、異なる世界を効果的に表現している。また音楽は前2作に続きブリュノ・クレが担当しKiLAに加え『アナと雪の女王2』(19)で広く知られるAURORAの澄んだ歌声が、現実から遠く離れた世界へと観客を導く。
イングランドからオオカミ退治の為にやってきたハンターを父に持つ少女ロビン。ある日、森で偶然友だちになったのは、人間とオオカミがひとつの体に共存し、魔法の力で傷を癒すヒーラーでもある “ウルフウォーカー”のメーヴだった。
メーヴは彼女の母がオオカミの姿で森を出ていったきり、戻らず心配でたまらないことをロビンにうちあける。母親のいない寂しさをよく知るロビンは、母親探しを手伝うことを約束する。翌日、森に行くことを禁じられ、父に連れていかれた調理場で、掃除の手伝いをしていたロビンは、メーヴの母らしきオオカミが檻に囚われていることを知る。
森は日々小さくなり、オオカミたちに残された時間はわずかだ。ロビンはなんとしてもメーヴの母を救い出し、オオカミ退治を止めなければならない。それはハンターである父ビルとの対立を意味していた。それでもロビンは自分の信じることをやり遂げようと決心する。そしてオオカミと人間との闘いが始まろうとしていた。
ロビン
イギリスの妖精ロビン・グッドフェローに由来する。シェイクスピアの「真夏の夜の夢」の妖精パックも、ロビン・グッドフェロー。
2004年8月5日生まれ。イザベル・コイシェ監督作『マイ・ブックショップ』(18)、『マイ・ベスト・フレンド』(15)『アガサ・クリスティーねじれた家』(17)などに子役として出演。
2010年生まれ、東京都出身。14年にミュージカル「ミス・サイゴン」のタム役でデビュー。17年、『3月のライオン』(監督:大友啓史)に川本モモ役で出演して注目を浴びる。『駅までの道をおしえて』(19/監督:橋本直樹)で映画初主演、19年に日本で公開された『ディリリとパリの時間旅行』(18/監督:ミッシェル・オスロ)では声優としても主演を務める。20年にはNHK連続テレビ小説「エール」の他、公開中の『喜劇 愛妻物語』(監督:足立紳)、12月公開予定の『ミセス・ノイズィ』(監督:天野千尋)に出演。また、<NHK>2020応援ソングプロジェクトによる応援ソング「パプリカ」を歌うFoorinのメンバーとしても活躍中。
マーリン
コチョウゲンボウというハヤブサの仲間。アーサー王に登場する魔法使いの名でもある。イギリスの民話に紐づく。
メーヴ
ケルト神話に登場する女王の名。とても古い名前で、アイルランドを二分する戦いを引き起こし、英雄的な人物として知られている。
アイルランド・キルデア州北部の町、プロスペラス出身の11才。キルデアにあるパフォーミング・アーツの学校に参加し演技に興味を持つ。2017年『ウルフウォーカー』でメーヴ役に抜擢された。その後TVコマーシャル、声優、「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台などで活躍中。
2009年生まれ、東京都出身。主な出演作に、『ディアーディアー』(15/監督:菊池建雄)、16年ミュージカル「Annie」や、NHK「佐知とマユ」、TBS「マザー・ゲーム~彼女たちの階級~」、NTV「ゆとりですがなにか」など、映画、舞台、テレビと幅広く活動している。また、<NHK>2020応援ソングプロジェクトによる応援ソング「パプリカ」を歌うFoorinのメンバーとしても活躍中。
ビル
ロビンの父 ウルフハンター
1959年4月17日イギリス・シェフィールド生まれ。父が経営する溶接工場で3年働いたのち、演劇に興味を持ちロンドンの王立演劇アカデミーに入学。卒業後舞台で活躍し84年に「ウインターフライト(未)」で映画デビュー。代表作に『パトリオット・ゲーム』(92)『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、人気TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」がある。
1974年生まれ、東京出身。98年是枝裕和監督作品『ワンダフルライフ』の主演で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、ナレーション等幅広く活躍。『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12年/若松孝二監督)で第22回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞、第8回大阪アジアン映画祭主演男優賞、『かぞくのくに』(12年/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。近年の主な映画出演作に、『菊とギロチン』(18)、『止められるか、俺たちを』(18)、『赤い雪 RedSnow』(19)、『嵐電』(19)、『こはく』(19)、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(19)、『宮本から君へ』(19)、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20)、『朝が来る』(20)などがある。
モル
メーヴの母、傷を癒す魔力を持つ
護国卿
敬虔なキリスト教徒(ピューリタン)、自分の使命は絶対と信じている
1977年1月7日、北アイルランド・ニューリー生まれ。ダブリンのバリーファーモット・カレッジでアニメーション制作を学び、1999年にポール・ヤング、ノラ・トゥーミーと共にアニメーション・スタジオ、カートゥーン・サルーンを設立。初のテレビシリーズとなった「Skunk Fu!」(07)は、アイルランドで映画・テレビ作品に贈られる賞として最高権威のIFTAを受賞しBCC、CartoonNetworkなど世界各国のテレビ局で放送された。『ブレンダンとケルズの秘密』(09)で長編デビュー、続く『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』(14)と2作続けてアカデミー賞にノミネートされた。その他、レバノン出身の詩人ハリール・ジグラーンの「ザ・プロフェット」の映画化『預言者』(14)のプロジェクトに複数名の監督と共に参加しカンヌ国際映画祭にて上映された。
1976年11月5日生まれ。絵画、イラスト、アニメーション、特にコンセプチュアル・デザインとアート・ディレクションの分野で活躍するアイルランドのアーティスト。 『ブレンダンとケルズの秘密』にアート・ディレクター、『パラ・ノーマンブライス・ホローの謎』(12)にヴィジュアル開発、コンセプト・アーティストとして参加。『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』ではコンセプト・アーティストを務めたほか、多くの短編アニメーション制作に携わる。トム・ムーアと共に『預言者』の1篇を監督。画家としては、抽象画を主に手掛け、作品を発表し続けている。本作で長編アニメーションの監督デビューを果たした。
1954年、フランス・パリ生まれ。クラシックの作曲家を目指しバイオリンとピアノを学び、フランソワ・レシャンバックからドキュメンタリー映画『MexicoMagico』(79)に曲を書いてほしいと頼まれ映画音楽の作曲を始める。映画・TVの音楽を数多く手がけるフランスを代表する作曲家。『ミクロコスモス』(96)『キャラバン』(99)『コーラス』(04)の3作品では、セザール賞を、『コーラス』ではアカデミー最優秀歌曲賞、英国アカデミー賞にもノミネートされた。代表作には『WATARIDORI』(03)、『白くまになりたかった子ども』(04)、『ホワイト・プラネット』(06)、『コララインとボタンの魔女』(09)、『オーシャンズ』(10)、『マリーアントワネットに別れを告げて』(12)、『ボヴァリー夫人とパン屋』(15)などドキュメンタリーから、ドラマ、コメディ、アニメーションまでと幅広い作品を手がける。トム・ムーア監督長編3作すべての音楽を担当している。
1987年にダブリンで結成した7人組グループ。バウロンやイリアン・パイプス(バグパイプの一種)など民族楽器を使った、様々なジャンルの音楽を発表している。本作でムーア監督作品への参加は3回目。
1996年生まれのノルウェール出身のシンガー、音楽プロデューサー。『アナと雪の女王2』のゲストシンガーとしても知られる。
ムーア監督がランニング中に聞いていた音楽の中で偶然「Running With The Wolves」に出会い、オオカミになったロビンとメーヴのシーンへの起用が決まった。ムーア監督は「この曲は彼女が19歳の時に書いたもので、ロビンの内なる声のようだと思ったのです。」と語る。オリジナルの楽曲をアイルランド風にアレンジし直し、ロックダウン中にリモート録音された。
美しい映画でありながら、力強い映画であることに感銘を受けました。
冒頭1カット目から当たり前のカットが1つもない。
1カット、1カットが驚きの連続で、本当に素晴らしい作品でした。
細田守
アニメーション映画監督
成熟し、完成度の高い形式美、その造形の妙味は、視覚の快楽を与えてくれる。
近代ヨーロッパの「理性」の光で照らされた社会、その反動としてのケルト文化の原始的な自然崇拝の精神が、
自在な造形や変形が可能な「アニメーション」がもつ可塑の力とリンクし、甘美な中世の変身譚へと誘う。
少女のイニシエーションの構造を持つ古典的な物語だが、それに呼応する父親の変化が現代的で優しい。
山村浩二
アニメーション作家・絵本作家
オオカミと人との関係性を、分断から共存へと変えていくやわらかな視点。
できるなら、ぼくもウルフウォーカーになって、自然の一部としての存在の喜びを感じ、
アイルランドのあの美しい森のなかで遊んでみたいです。
指出一正
『ソトコト』編集長
トム・ムーア監督、ロス・スチュアート監督の美しい色彩と造形の世界に、今作はさらに躍動の光が加わった。

狼と人間。自然と人間。
いつも愚かで臆病な人間社会を浮き彫りにさせながら、美しい魂を魅せてくれる。母性に強く響く。

怯えて目を背けて壁を作るより
真っ直ぐに見つめて飛び込むことで
真実の愛を見つける。人と自然は分かり合えるのかもしれない。

『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』に続き
ケルトの伝説から着想を得た『ウルフウォーカー』は、私たちに生きるために必要な大きな愛を伝えてくれた。

この三部作の中で、もっとも愛の深い作品である。
森本千絵
goen°
嗚呼、なんて「描く喜び」に溢れたアニメーションなのだろう。
そして、観る者に惜しみなく親愛を注ぐ映画なのだろう!
自然界を描く鉛筆タッチの重ねが表す動きの柔らかさ(「101匹わんちゃん」でディズニーが目指したマシントレスの開発を彷彿とさせる)と、城下街の木版画調で硬く冷たい世界の対比、極端にデフォルメされた画面構成、魂の動きの可視化 etc… 
本作の為の表現開発は、彼等の母国アイルランドに色濃く残るケルト文化を反映しつつ、全てがちゃんと物語の言語として機能している。
ロス・スチュアートを共同監督に迎える事でその表現力はより昇華し「ブレンダンとケルズの秘密」を思わせる神秘性が全編に満ちていることも嬉しい。
一方、カートゥーン・サルーンがただのロマンチストでない事は「ブレッドウィナー」に至る作品系譜を見れば明らかで、テーマソングのスキャットに狼の遠吠えを感じながらこの美しい物語に身を浸していると、奥底から沁みてくる「警鐘」に気づく。
生き生きと走りまわる狼達はすでに絶滅しているのだ。
それを単なる感傷・批判に終わらせず観客を置き去りにせずに描ききった本作はアニメーションの魅力に満ちている!
伊藤有壱
アニメーションディレクター
この作品は全ての「命」を肯定する物語。
そして、2人の少女の友情を賭けた壮大なアクションムービーです。
絵画の世界に迷い込んだかのような色彩豊かな森を背景に、
光や雨の表現をケルト音楽がより一層美しく魅せてくれます。
勇敢な少女達の姿に、今私たちが、未来のために戦うべき相手を問われた気がします。
蟹江杏
画家
順不同・敬称略
オスカーノミネート確実
アイリッシュ・タイムズ
見る者を幻惑する映像、豊かな想像力が心揺さぶる。ケルトの伝説を下敷きに現代の問題を描く。
ハリウッド・レポーター
今年最高のアニメーション。感動的な傑作!
今後どんな監督が登場したとしても、ムーアと仲間たちはアニメーションという表現を高めた最高のアーティストとして記憶されるだろう。
プレイリスト
監督たちは分割画面、モンタージュ、優れた編集によって、一時も観客の気をそらさない。
愛すべき三部作の最終章『ウルフウォーカー』は古典の風格
スクリーン・インターナショナル
後世に残る素晴らしい作品
ヴァラエティ