21世紀フランス・アニメーション映画の傑作
2003年のカンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映され、ニューヨーク映画批評家協会賞をはじめ多くの映画賞を受賞し、フランス映画として初めてアカデミー賞の長編アニメーション映画部門にノミネート。2021年2月10日Newsweek(電子版)が発表した批評家が選ぶ100本のアニメーション映画15位、21世紀のアニメーション映画の傑作(IndieWire)、トップ100アニメーション映画(ロッテントマト、94%フレッシュ)、100本のアニメーション映画(タイムアウト)など世界各国の名作アニメーション・ランキングに必ず選出される21世紀を代表する傑作。ファニーでチャーミングな作品は20年もの間、多くの人に愛され続けている。
おばあちゃん力全開 “人生に必要なのは腕力でも権力でもない”
孤独な少年シャンピオンが情熱を傾ける自転車レース。孫を不憫に思うおばあちゃんとの特訓が実を結び、遂にツール・ド・フランスに出場するもそこで、事件は起きる。マフィアに誘拐された孫を追って、愛犬ブルーノとともにシャンピオン奪還のための大冒険が始まる。協力してくれるのは伝説の三つ子ミュージシャンの老婆、腕力では敵わないが、人生経験と知恵そしてユーモアと愛で数々の難局を乗りきっていく。
2D手描きアニメーションの可能性と創造力を証明する
2000年代に入り、多くのアニメーション作品が手描きからCG作品に軸足を移していった。時代の流れに逆らうかのように3Dの技術を取り入れながらも、手描きにこだわった。ニューヨークやパリ、モントリオールなど現実の風景をもとに架空の都市ベルヴィルを構築し、デフォルメされたユーモラスな登場人物たちが生き生きと動く世界を描きだし、タイムレスな魅力を持つ作品をうみだした。
絵にひきこまれ、物語に裏切られる
バンド・デシネ作家からキャリアをスタートさせたシルヴァン・ショメ監督の映像は、台詞の少なさに反比例するかのように多くを語る。見る者の常識を心地よく裏切っていく展開は、いつの間にか画面から目を離せなくする不思議な力を持つ。アンバランスな体つきや奇妙な動き、個性的な登場人物など細部にまで皮肉やユーモアが効いている。
50年代へのオマージュ
監督が敬愛するジャック・タチ、マックス・フライシャーのアニメーション、チャールズ・チャップリンら監督の少年時代、50年代を彩るさまざまな著名人への愛に溢れたオマージュが捧げられている。随所に散りばめられた、あそび心たっぷりのたくさんの仕掛けも見逃せない。
もうひとつの主人公
アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた主題歌、ジャンゴ・ラインハルトへのオマージュ、“伝説の三つ子”が歌うスウィンギング・ジャズ、バッハやモーツァルトまで自由自在に、しかし映画にぴたりとよりそう音楽。ダイアロー
グがほとんどないことを観客に忘れさせ、この映画を洒脱なものにするのに大きく貢献している。
そのあまりに突き放した人間の描き方に驚き呆れ、
笑いながら超一流の表現を楽しんでいるうちに、
黙々と行動するおばあちゃんのけなげさが、
栄枯盛衰にめげない三つ子のたくましさが、
ワン公のトラウマが、シャンピオンの哀れさが、
要するに人生のほろニガさが、惻々と伝わってくる。