Widgets by ムビチケ
フランスを代表するアニメーション監督ミッシェル・オスロの最新作は、美しい歴史書をひもとくように、魅惑の古の世界へと観客を誘う。 3つの異なる都市と時代を舞台に、自分を信じることで運命を変え幸福を手にする3人の王子のエキゾチックな物語。
2022年夏にルーヴル美術館で開かれた「二つの土地のファラオ:ナパタ王家の叙事詩」展のために制作された第1話「ファラオ」。綿密なリサーチをもとに映画の世界を組み立てていく監督の手法は今回も健在だ。ルーヴル美術館の古代エジ プト美術部門長ヴァンサン・ランド氏監修のもと、史実に忠実に再現された造形表現は、まるで美術館に紛れ込んだかのようだ。第2話「美しき野生児」の舞台はパリからおよそ400km、フランスの中心に位置し美しい自然に恵まれたオーベルニュ地方。監督が取材旅行で撮影した写真をもとにデザインされた色鮮やかな背景に、影絵風の黒いシルエットで野生の王子の美しさを引き立たせた。東洋と西洋が交差する独自の文化を持つトルコを舞台にした3話目「バラの王女と揚げ菓子の王子」は、監督の膨大なアイディアの引き出しから繰り出された、時代を超越した空想の物語だ。
古代エジプトを象徴し、永遠の命を示すと言われる“蓮”。フランス、オーベルニュ地方に自生し昔から薬として用いられてきた“ゲンチアナ”。世界を代表する産地の一つで美しさと甘い香りで人々を魅了するトルコの“バラ”。どんな環境にあってもそれぞれの個性を持ち美しい花を咲かせること―3人の王女と共に王子たちの未来を予見するかのように3つの花が劇中で効果的に使われている。
3つの物語が語られるのは建設現場だ。オスロ監督は本作を「パンデミックと戦争という痛みを経験した私たちが復興するためのエネルギーとなる映画だ」という。一貫して自由と平等を追求してきた監督は「人々に自由であること、有害なルールに屈服したり従ったりすることを拒否するよう勧めています」とも語る。 不遇な環境をものともせず、勇気と知恵を糧に非暴力で自分の人生を逆転させていく3人の王子の物語は、先の見えない不安を抱えて生きる現代人に、日々の暮らしの中で忘れてしまっていた純粋で優しい気持ちを思い出させてくれる。
クシュ王国の王子はナサルサとの結婚を認めてもらうため、エジプト遠征の旅に出て、神々に祈り祝福されながら戦わずして国々を降伏させ、上下エジプトを統一、最初の黒人ファラオとなり、無事ナサルサと結ばれる。
中世フランスの酷薄な城主に追いやられた王子は、地下牢の囚人を逃がした罪で森に追放されるが、数年後美しき野生児として城主に立ち向かい、お金持ちから富を盗み貧しい人々に分け与え囚人の娘と結ばれる。
モロッコ王宮を追われた王子はバラの王女の国へと逃げ込み、雇われたお店の揚げ菓子を通じて国から出た事がない王女と出合い、2人は秘密の部屋で密会し、宮殿を抜け出し自分たちで生きていくことを決意する。
監督:ミッシェル・オスロ
1943年10月27日コート・ダジュール生まれ。ギニアで幼少時代、アンジェで青年期を過ごす。最初はアンジェの美術学校で、のちに国立高等装飾美術学校で装飾芸術を学んだ。アニメーションは独学。プロとしての初の短編作品「3人の発明家たち」(1979)で BAFTA賞を受賞。以降自ら全ての作品のシナリオとイメージデザインを手がける。影絵を用いた『プリンス&プリンセス』など短編アニメーションやテレビアニメーションを多数制作し、セザール賞をはじめ多くの賞を受賞。また初の長編作品『キリクと魔女』では観客からも支持され興行的成功も収めた。 1994年から2000年まで国際アニメーション映画協会の会長を務めた。 2009年にはレジオン・ドヌール勲章をアニエス・ヴァルダ監督から授与され、2015年、ザグレブ国際アニメーション映画祭で特別功労賞を受賞した。2022年には高畑勲監督も2014年に受賞したアヌシー国際アニメーション映画祭の名誉賞を受賞した。
2022
古の王子と3つの花
2020
Pablo Paris Satie(短編)
2018
ディリリとパリの時間旅行
2012
キリク 男と女 3D<未>
2011
夜のとばりの物語 ―醒めない夢―
2010
夜のとばりの物語
2006
アズールとアスマール
2005
キリクと魔女2 4つのちっちゃな大冒険<未>
1999
プリンス&プリンセス
1998
キリクと魔女
アイサ・マイガ
Aïssa Maïga
ストーリーテラー
La conteuse
1975年5月5日セネガル生まれ。俳優、監督、作家、プロデューサー、アクティヴィスト。4歳でフランスに渡り叔父夫婦と暮らす。父は1987年ブルキナファソの国家元首が、クーデターで殺害される数ヶ月前に殺害された。イヴァン・アタル監督「Denis Amart's Saraka Bô」(1995)でスクリーンデビューし、その演技が認められミヒャエル・ハネケ監督『隠された記憶』(2005) やセドリック・クラピッシュ監督の『ロシアン・ドールズ』(2005)に出演。2006年にアブデラマン・シサコ監督のマリを舞台にした「Bamako」でセザール賞の最も期待される女優賞にノミネートされ、アフリカにルーツを持つ最初のフランス女優になった。これにより彼女はフランスで最も知られ活躍する黒人女優となった。フランス映画における黒人の存在の希薄さに対して、他の有色人種も含めて変化を後押しする活動に積極的に取り組んでいる。オドレイ・トゥトゥやロマン・デュリスらとミッシェル・ゴンドリー監督の『ムード・インディゴ うたかたの日々』(2013)に出演したほか、マラウイの食糧危機を描き、サンダンス国際映画祭で上映された『風をつかまえた少年』(2019)などの出演で知られる。
オスカル・ルサージュ
Oscar Lesage
タヌエカマニ/美しき野生児/揚げ菓子の王子
Tanouékamani Beau Sauvage Le Prince des Beignets
1996年10月23日フランス、アルザス地方ミュルーズ生まれ。母は有名シェフ。アーティストとしてキャリアをスタートさせたが、映画やテレビシリーズで広く知られるようになる。自身のYouTubeチャンネルで新曲を発表するなど音楽活動も続けている。2022年にネットフリックスで配信された「危険な関係」で一躍有名になる。他にBBCのテレビシリーズ「Marie Antoinette」などに出演。
クレール・ドゥ・ラリュドゥカン
(コメディ・フランセーズ)
Claire de la Rüe du Can de la Comédie Française
ナサルサ/バラのプリンセス
Nasalsa La Princesse des Roses
理系の中等教育を受けた後、トゥール音楽院で演劇を学び同時にフランソワ・ラブレー大学で美術史の学位を取得する。2011年、ニース映画祭などで表彰されたジョヴァンニ・スポルティエッロ監督の短編映画「Tania」で主役を演じた。同年ストラスブール国立演劇学校に入学。2013年10月1日からコメディ・フランセーズに在籍し、ヴェロニク・ヴェラ演出のモリエール作「サイケ」のエージアレ役でデビューした。他にナディール・モクネーシュ監督の「Lola Pater」(2017)やテレビアニメシリーズ「プチバンピ」の吹き替えを担当するなどコメディ・フランセーズ以外でも活躍している。
驚異的な美しさを持つ物語である。
Positif
オスロの映画の中には小さなものはなく、
最も控えめな物語であっても大きな感情を呼び起こす。
Libération
ミッシェル・オスロは、その洗練されたスタイルで、
メッセージを伝えることと作品の美しさを両立させている。
La Croix
美味しい思索のひととき。
Bande à part
彼の作品は常に非常に精巧で、
とてもシンプルにまとまっている。
Le Monde