INTRODUCTION
“親愛なる日記よ、この世にはぼくの大好きなことがある”
ナンニ・モレッティのみんなが<大好きな映画>が撮影から30年ぶりにレストア版として映画館に帰ってくる。ローマとシチリアの島々そして病院を巡る映画監督の親密でおかしくてちょっと辛辣な3章からなる物語。カンヌ国際映画祭総代表ティエリー・フレモーが、「現代映画における“映画監督の日記”というジャンルを再発見した見事な作品」と評する本作は、第47回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、カイエ・デュ・シネマ誌年間ベストワンに選ばれた。
STORY
第1章  ベスパに乗って
風を切って気ままにベスパを走らせ、ところどころでたちどまる。
8月の人気のないローマをベスパで巡る映画監督モレッティ。観光ガイドにはのっていないローマ人ならではの愉快なローマ案内。
第2章 島めぐり
海と風と太陽。旧友とたわいのないことだけを話す。
ユリシーズ研究者の友人を訪ねて、エオリエ諸島のリパリ島に向かうモレッティ。しかし友人の家は町の中心にあって喧騒はローマ並み。2人はリパリ島からサリーナ島に向かうのだが、そこにも問題はあって、エオリエ諸島を巡ることになる。
第3章 医者めぐり
人生の一瞬一瞬に価値を見出すようになる。
突然襲われた激しいかゆみのために、皮膚科を受診するモレッティ。薬を処方され治療に励むのだが症状は改善せず、ひどくなる一方。皮膚学界のプリンスや民間療法など様々な治療を試すのだが、最後に衝撃的な診断が下される。
DIRECTOR
監督・脚本・出演 ナンニ・モレッティ
NANNI MORETTI
1953年8月19日トレンティーノ=アルト・アディジェ州ブルーニコ生まれ、ローマで育つ。学生時代は映画と水球に熱中した。1973年に切手のコレクションを売って手に入れたスーパー8で短編『La sconfitta』を撮影。1976年長編デビュー、1978年弱冠25歳で第2作『青春のくずや〜おはらい』がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され一躍注目を集めた。日本で劇場公開される機会は少ないが短編やドキュメンタリー作品も多く発表している。初の原作小説を映画化した『3つの鍵』(21)の公開が控える。ローマでヌオーヴォ・サケルという映画館を共同経営。名前はモレッティの好きなケーキ、ザッハトルテに由来する。
CAST
ジェニファー・ビールス
“あんなふうに踊れたら”と主人公が憧れ、ローマの街角で偶然出会うジェニファー・ビールスは、1963年シカゴ生まれ。イエール大学在学中の1980年『マイ・ボディガード』で映画初出演。4000人が応募したオーディションを経て主役に抜擢された『ブラッシュダンス』(83年)で一躍世界的スターとなる。86年アレクサンダー・ロックウェルと結婚も96年離婚。出演作には『イン・ザ・スープ』(92)、『ザ・ウォーカー』(10)、テレビシリーズ「Lの世界」などがある。
アレクサンダー・ロックウェル
1956年ボストン生まれ。10代で、パリに渡りグラフィックを学ぶ。初長編「Lenz」が1982年ベルリン国際映画祭で上映され、1992年にはスティーヴ・ブシェミ、シーモア・カッセル、ジェニファー・ビールス出演の『イン・ザ・スープ』がサンダンス映画祭でグランプリを受賞。2017年よりニューヨーク大学大学院ティッシュ芸術学部映画学科の監督コース長を務める。米インディーズで尊敬を集める監督の1人。
カルロ・マッツァクラーティ
なぜあんな評を書いたんだと枕元で責められる批評家を演じたのは、映画監督・脚本家のカルロ・マッツァクラーティ。1956年パドヴァ生まれ。モレッティが製作を務めた『イタリアの夜』(87・未)で監督デビュー。ガブリエーレ・サルヴァトレスの『マラケシュ・エクスプレス』の脚本を担当した他、監督作に『ラ・パッショーネ』(10・未)、『幸せの椅子』(13・未)などがある。2014年死去。
レナート・カルペンティエーリ
1943年サヴィニャーノ・イルピーノ生まれ。ナポリで建築を学びながら、演劇と映画を促進する芸術集団「Nuova Cultura」(新しい文化)で活動。75年には「Teatro dei mutamenti」(変化の劇場)を共同創設し、80年まで監督、俳優、劇作家として活動した。90年のジャンニ・アメリオ監督『宣告』で映画初出演。おもな出演作に、タヴィアーニ兄弟監督の『フィオリーレ/花月の伝説』(93)、ジャンニ・アメリオ監督の『ナポリの隣人』(17)などがある。
REVIEW
『親愛なる日記』でのモレッティの沈黙は、かつて彼が叫びながら床に転がっていた発作の時よりもよほど暴力的な嵐のようです。ヒステリックな人々が静かにしているときというのは、それが本質的であるがゆえに貴重なものです。海を進みながら風と太陽を楽しむこと、旧友と田舎を歩き、たわいのないこと(例えばアメリカのドラマ)だけを話すこと、空に向けてボールを蹴り上げ、ひとりでサッカーをすること、ベルイマンがその優雅さに感動したロベルト・ロッセリーニの『ストロンボリ』島、あるいはキース・ジャレットの「ザ・ケルン・コンサート」によって照らし出される忘れがたいシーンですが、パゾリーニが殺害されたオスティア海岸など映画史の一部を感じられる場所を訪れることなどです。
それまでの作品に登場していた双子のようなキャラクター、ミケーレ(※)を捨て、ナンニ・モレッティはこの作品で、まだベルルスコーニに投票していないイタリア、そして、いわゆる“歴史”とその文化、その国民の威信を飽くことなく繰り返し言葉にしなければならないイタリアを探しながら、物(都市、ローマ)、世界(島、祖国)、彼自身(病、生、死)を見つめています。  
※初期の4作品に登場するモレッティ自身が演じる架空の人物ミケーレ・アピチェッラのこと。アピチェッラは母の旧姓。
ティエリー・フレモー
カンヌ国際映画祭総代表
オフビートの楽しさ
The New York Times
親密で笑える
The Village Voice
現代の映画人の分身が、人生と芸術の境をみごとに消し去ってみせる。
THE NEW YORKER